2008年06月05日

「祭りの準備」と京一会館

51HW3SXX35L._SL500_AA240_.jpg

6月1日の深夜、NHK衛星放送で「祭りの準備」が放送されました。

1975年のATG(シネマアートシアターギルド)制作の映画です。

監督の黒木和雄氏の作品では「竜馬暗殺」とならんで代表作のひとつに
数えられる映画だと思います。

黒木監督は同志社大学法学部の出身で、わたしの大学の先輩にあたります。

「祭りの準備」は学生のときによく行った名画座で観ました。

学生のころ京都の修学院というところに下宿していたのですが、修学院から
京福電鉄で市内方面へひと駅戻った一乗寺に「京一会館」という映画館がありました。

hakurankai.jpg

修学院から一乗寺ではバイクで行っても10分足らず。
(宮本武蔵の一乗寺下がり松の決闘で有名な一乗寺です)

一乗寺駅から歩いて5分ほどのところに食品スーパーがあり、その二階が映画館に
なっていました。スーパーの正面右隅に二階へ上がる狭い階段があり、階段を上がると
左手に「洛北のシネマサロン 京一会館」の入り口があります。

昔ながらの映画館。三本立てで毎週上映作品は変わります。学生料金は500円でした。
入り口で毎月A4二つ折りの上映スケジュール表をくれます。
そのスケジュール表を眺めながら、これとこれは観にいこうなどと計画を立てたものでした。
というか、な〜んもやることのない日などは500円で半日すごせますので、ふらっと立ち寄る
こともよくありましたが・・

写真は「まぼろし映画館・京一会館博覧会」というサイトよりお借りしました。

このスケジュール表ですが、あるときバックナンバーを綴じたものをどさっともらったことがあり、
わたしの実家の机の中に眠っています。

「まぼろし映画館・京一会館博覧会」さんのサイトでスケジュール表を確認すると、
「サード」「約束」とこの「祭りの準備」の三本立てだったように思います。

萩原健一と岸恵子が出演していた「約束」については、ほとんど憶えていません。
もともと「サード」が観たくて入ったため、もしかしたら寝ていたのかも?

当時はデビュー間がないころの竹下景子のヌードシーンが話題となっており、
それを観たさで行ったためストーリーはうろ覚えでしたが、改めて見直してみると、この映画、傑作です。

舞台は高知の中村市。現在は四万十川市となっているそうです。
時代はおそらく昭和34年ころだと思います。
主人公の楯男が映画館で観る作品が、石原裕次郎の「錆びたナイフ」(1958年)であり
小林旭の「南国土佐を後にして」(1959年)であることや竹下景子扮する涼子が
「売春防止法が施行された(1958年4月より)のにまだあんな女がいるんやね」というセリフで
おおよそ時代が分かります。

「ALWAYS 三丁目の夕日」の時代と重なります。
かたや四国の田舎町。かたや東京の下町。
かたや日本の世俗的なムラ社会が現存するところ。かたやそのムラ社会から都会へ出てきた人々。
「東京で一旗揚げる」という言葉がまだまだ通用していた時代です。

また石原裕次郎がデビューした「太陽の季節」や一躍トップスターになった「狂った果実」は昭和31年。
「俺は待ってるぜ」「嵐を呼ぶ男」が昭和32年ですから、地方の若者にとって銀幕のスターが闊歩する
「湘南〜東京」の風俗には強いあこがれが芽生えても不思議ではありません。

まさに地方のどろどろとした地縁・血縁に埋もれたムラから、なんとか脱出したいと願う主人公と
ムラ社会に埋没しまたムラ社会にのみ居場所を確保できる人たちが、ある一定の間隔を保ちながら
付き合っているサマがよく描かれています。

とにかく性的描写が暑苦しく、湿度が高く空気が重い。見ている側にまで息苦しさを伝えます。

日本独特の開放された性風俗がいまだに残っているムラ。
開放された性風俗がムラ社会を形作っていき、家族単位だけでなくムラ全体がひとつの家族のように息づいている。

旦那の愛人であってもムラの一員として一緒に働く妻。
婆さんたちに囲まれて授乳をする若い母親。
兄貴が投獄中に兄嫁と交わるやくざな弟。
覚せい剤中毒になって気のふれた娘に子どもを生ませてしまう爺さん。
そんな子どもでもムラの子どもとしてみんなで育てようとするムラの人たち。

登場人物それぞれが生々しく、人間くさい。

黒木監督はまだまだ戦前からのムラ社会の風俗を見事なまでに切り取ることに成功しています。

そんな中で当時の若者のインテリ志向者が標榜する左翼思想を植えつけるために、集会を企画し密かに
同士を募るオルグが描かれます。

主人公の恋人役を演ずる竹下景子は田舎の娘がせいいっぱい小奇麗にしたらこんなだろうという姿で登場し、
左翼思想を語るオルグに憧憬しつも、かつ猥雑な仲間と付き合う主人公に対してはやや離れたところから
密かな想いを寄せているという役回りを上手く演じています。

しかしこの映画は主人公の隣に住むやくざな弟役を演じる原田芳雄が抜群にいい。
暑苦しい雰囲気といい、軽いが存在感のあるせりふ回しなどは原田独特のものだと思います。

黒木監督お気に入りの役者だからか、監督は原田を上手に捌いています。
主演の江藤潤の誠実な雰囲気と原田芳雄の淫靡さの交錯が秀逸です。

ところで江藤潤とのラブシーンで見せた竹下景子の乳首は竹下景子のものかどうか?
ワンカットで竹下景子の顔と胸を撮ったシーンは無いのですが、火事のシーンでは全裸になっているし、
低予算で有名なATGが、当時無名女優であった竹下景子に吹き替えを用意しているとは思えないし・・

それはさておき、ラストで東京へ行くために電車に乗った主人公の晴れやかな顔は、観る側にも何か
ほっとした安堵感やカタルシスを感じさせ、自然に感情移入のできるいい映画に仕上がっています。

これから人生の「祭り」の時期に向かう青年の通過儀礼をその「準備」と称したのだと思います。

この映画は小品ですがきらりと光る逸品です。
posted by 保険に強いFPです! at 18:30| Comment(2) | TrackBack(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。